安倍晴明公の流れを継ぐ土御門家は、全国の陰陽師を統轄する本所の役目を担い、代々朝廷に仕え、天文を観て暦を編み、祭祀を修し、国家の大事に際して占断を奏してまいりました。
人を観るのではなく、天を観る。これが、当宮の占術の根本でございます。
日月星辰の運行、四時の巡り、陰陽五行の移ろいを通して、神々の御働きとして現れる気の流れを読み、人の歩みを天の時に調えるための術でございます。
ここで「人を観ない」とは、人を顧みないという意味ではありません。人だけを天地から切り離し、性格や運命を断定しない、ということでございます。人もまた、天地の間に生かされ、神々の御縁のうちに生きる存在だからでございます。
仰いでは象を天に観る
仰則觀象於天、俯則觀法於地……以通神明之德。
仰いでは象を天に観、俯しては法を地に観る。……以て神明の徳に通ず。
——『周易』繫辞下伝
『周易』は、古の聖人が天に現れる「象」を仰ぎ観て、地に現れる「法」をうつむき観たと伝えます。象とは、日月星辰の運行、季節の変化、風雨寒暑の巡りに現れる、天地のしるしでございます。
そして、その象を通して「神明の徳に通ず」と説きます。ここでいう神明の徳とは、天地の変化の奥に働く、目には見えない霊妙な道理を指します。当宮では、これを神々の御働きを畏み、その御心を受け取ろうとする姿勢に重ねております。
ゆえに占術は、まず天を仰ぎ、今、天地の間にどのような気が巡っているのかを知ることから始まります。万物は太一より生じ、人もまた、天地を巡る一つの気のうちにあるからでございます。
天は象を垂れて、吉凶を示す
天垂象、見吉凶、聖人象之。
天、象を垂れて吉凶を見(あらわ)し、聖人これに象る。
——『周易』繫辞上伝
天は、象を垂れて、その時の吉凶を示すとされます。聖人は、そのしるしに象り、行いを調えました。
吉凶とは、天からのしるしでございます。今はどの気が盛んであるのか、何を進めるべきか、何を慎むべきか。それを知らせて、今の行いを選び直させてくれるものでございます。
吉の時には、その勢いを周囲と分かち合う。凶の時には、立ち止まり、身を慎み、祓い清め、時が調うのを待つ。吉凶を知るとは、今の行いを正すことでございます。
天の時を奉ずる
與天地合其德、與日月合其明、與四時合其序、與鬼神合其吉凶……後天而奉天時。
天地とその徳を合し、日月とその明を合し、四時とその序を合し、鬼神とその吉凶を合す。……天に後れて、天の時を奉ず。
——『周易』乾卦・文言伝
天の運行を観て、その後に歩みを定め、天の時を奉ずる。ここに、当宮の占術の姿勢がございます。
春に芽吹き、夏に育ち、秋に実り、冬に蔵するように、物事にはそれぞれの時がございます。始める時、進める時、収める時、待つ時。その時を見誤らず、自らの行いを天の巡りに合わせることが、天に沿うということでございます。
占術によって天の時を知るのは、神々の気の流れに沿って、授けられた歩みをよりよく進めるためでございます。
神徳によって、運を添える
神は人の敬によりて威を増し、人は神の徳によりて運を添ふ。
——『御成敗式目』第一条
神と人との結びつきは、たがいに寄り合って成るものでございます。人が神々を敬い、祈りと行いを正すことによって、神威はいよいよ顕れます。そして人は、その御神徳によって、歩むべき運を添えられます。
当宮が考える開運とは、天の時を知り、神々の御働きに沿い、自らの心と行いを調えることでございます。その積み重ねのうちに、神徳によって運が添えられてゆきます。
占う者に求められる心
凡そ神は、正直を以て先と為す。正直は、清淨を以て本と為す。
——度会家行『神道簡要』
天を観る者の心が、私欲や思い込みに曇っていれば、天の象を正しく受け取ることはできません。自分に都合のよい答えを求め、恐れをあおり、人を支配しようとするならば、それは当宮のいう占術から離れてしまいます。
ここに申す正直(せいちょく)とは、良い心でいようとする心のことでございます。占う者は、まず身と心を清めます。そのうえで、良い心でいようとする心を保って、天を仰ぎます。答えを急がず、慎みをもって読み取る。正直を先とし、清浄を本とするこの心があってこそ、占術は神々と人とを結ぶ道となります。
当宮の占術とは
当宮の占術とは、天を観て、神々の御働きとして現れる気の流れを読み、その流れに人の歩みを調えるための術でございます。
天の象を観る。
時の吉凶を知る。
進むべき時と、慎むべき時をわきまえる。
神々を敬い、心と行いを正す。
そして、天の時に沿い、神徳によって運を添える。
未来を恐れるためではなく、よりよく今を生きるために。人を縛るためではなく、人を天地の正しい巡りへと戻すために。当宮は、占術をそのような道として受け継いでおります。
参考古典
『周易』繫辞上伝・繫辞下伝・乾卦文言伝
『御成敗式目』第一条
度会家行『神道簡要』
※古典の引用文には、通読のため当宮による句読と訓読を施しております。引用に続く説明は、当宮の解釈でございます。