◆ 解除(げじょ)とは
穢れと解除(げじょ・お祓い)
穢(けがれ)とは、死や病、血などにまつわる陰の気を申します。
これらは生命の循環の中で避けがたく生じるものであり、
天地のめぐりにおける陰陽の偏りとして現れるものでございます。
また、人は日々の暮らしの中で、悲しみや怒り、恐れ、疲れなど、
さまざまな陰の気に触れながら生きております。
それらが積もると心身の調和を乱し、運のめぐりさえも滞らせてしまいます。
解除(お祓い)とは、天の神の御力をいただき、
その穢れを祓い、陰陽を調え、心身を清めていただくための神事でございます。
古来、歴代天皇の御代の安泰を祈り奉り、また将軍家の御守護を願い、
その災厄を解き祓い清めてまいりましたのが、当宮の陰陽師(おんみょうじ・現代は陰陽士)にございます。
この神事の中心にあるのが、
人に宿る滞りをほどき、魂魄を清め直す、陰陽師の呪術の一つ「解除(げじょ)の儀」でございます。
この神事は、天地の理に則り、陰陽の気を正しくめぐらせるための“再生の祓”とも申せます。
上巳(じょうし)の祓 ― 古来の祓えの原点 ―
古より三月上旬の巳の日、すなわち「 上巳の祓(じょうしのはらえ) 」と申す行事がございます。
これは、現代の「 ひな祭り(桃の節句) 」の起源ともなった古式陰陽道の祓であり、
春の陽気が満ちはじめるこの節に、冬に積もった陰の気を祓い、
新たな生命の息吹を迎えるために行われてまいりました。
人はこの日に水辺に出て身を清め、紙や草で作った形代(かたしろ)を自らの身代わりとして撫で、
息を吹きかけて穢れを移し、それを川に流して禍を祓いました。
この作法がやがて「 流し雛(ながしびな) 」の風習となり、
女児の健やかな成長と幸福を願う「 ひな祭り 」へと姿を変えて今に伝わっております。
暦において、上巳の節句(三月三日)は「陽の気が盛んとなり、陰陽が交わる節目」とされ、
陰を祓い、陽を正しく受けることで、一年の安寧を祈る重要な節でございました。
解除の儀
このような古式の祓の系譜を継ぐのが、当宮に伝わる「解除(げじょ)の儀」でございます。
解除では、形代(かたしろ)に穢れを移し、それを神前に奉じて祈りを捧げます。
ただ穢れを流し清めるのではなく、縁(えにし)や因(いん)のめぐりを解きほぐし、理(ことわり)を正すための儀式でございます。
解除とは、断ち切る祈りではなく、天地の理を調え直す祈り。
心身にまとわりついた陰気を解き祓い、清らかな陰陽調和のもとへと導くものにございます。
上巳の祓に象徴されるように、祓とは「新たに生まれ変わるための神事」であり、
太古より続く“天と地の息吹を受け直す”ための祈りでございます。
解除の儀はその精神を現代に受け継ぎ、人が再び天の理に順い、安寧と幸福の道を歩むための大切な御祈祷でございます。