太一陰陽五行の
霊獣
陰と陽の精
月のうさぎと三本足の烏
しかしこの名は、かの安倍晴明公が編纂したと伝わる秘伝の書『 簠簋内伝金烏玉兎集(ほきないでん きんうぎょくとしゅう) 』にも記されている、古式ゆかしい言葉なのでございます。
「 金烏(きんう) 」とは、太陽に棲まう三足の烏にして、
陽極まりて陰(くろ)となる――大いなる陽の精にございます。
「 玉兎(ぎょくと) 」とは、月に棲み、餅をつくという白兎にして、
陰極まりて陽(しろ)となる――大いなる陰の精にございます。
この二つを合わせ、「金烏玉兎」とは、古来より太陽と月そのものを表し、ひいては陰陽の二つの精霊を意味するのでございます。
日月陰陽の精霊が、この日本の国において いかに深く人々の心に息づき、敬われてきたか。 その証を、歴代天皇陛下が身にまとわれた至高の装束、 礼服(らいふく)に見ることができます。
奈良の聖武天皇の御代より、明治天皇の父君・孝明天皇に至るまで、 千余年にわたり、天皇陛下は最も尊き祭祀の折にこの礼服をお召しになられました。
左肩には、陽光の化身である三本足の烏「 金烏 」。
右肩には、月光の化身である白き兎「 玉兎 」。
そして御背中の中央には、陰陽をしろしめす北天の太一大神、北斗七星が織り込まれておりました。
この礼服は、太陽と月、天と地、そして神と人とを結ぶ、天地の理を象徴しているのでございます。
この金烏と玉兎の物語は、遥か古代中国にその源流を遡ります。漢の時代には、不老不死を司る仙女・西王母(せいおうぼ)の傍らに、太陽の烏と月の兎が寄り添う姿で描かれました。
また、太陽の三足烏の神様は、中国、日本に限ったことではございません。古代朝鮮の高句麗においても、三本足の烏は「火鳥」と呼ばれ、同じく太陽の化身として篤く敬われておりました。
やがて天地陰陽の理(ことわり)は、時を超えて日本へと伝わり、 陰陽調和の理をもって国家安寧を祈る、宮中祭祀の秘儀として受け継がれました。 『古事記』、『日本書紀』にも陰陽の理が記され、 我が国の建国の物語の中にも深く息づいております。
太陽神・天照大御神の御遣(みつかい)として、 初代・神武天皇を大和の地へと導かれた八咫烏(やたがらす)は、 太陽の精「 金烏(きんう) 」が日本の神話にその御姿を現されたものにございます。
このように、日月陰陽の精霊は、国や時代を越えて、陰陽和合の理(ことわり)を体現している、 大いなる和の精霊なのでございます。
太一大神の精、「 四霊 」と「 四神 」
霊獣とは 天地人の合に宿る神の象(かたち)
霊獣(れいじゅう)とは、人が天と地の理に完全に調うとき、自然の霊として顕れる神意のかたちにございます。
古代から人々は、風の流れ、雲の巡り、星の動き、そして人の心に生まれる微かな感応を通して、その背後にある“天の意(こころ)”を感じ取ってまいりました。
雷鳴のあとに応竜を見、太陽の光に鳳凰を感じ、秋の静けさに麒麟を見、長き時を越えて生きる亀に、天の寿(いのち)の永さを見たのです。
霊獣とは、天地の理に調和して生きる心の姿を映した「 徳の象(すがた) 」であり、 人が清き豊かな心をもって天地と響き合うとき、その姿を通して吉兆を授けてくださるもの。 ゆえに、霊獣とは、見ようと試みるものではなく、日々の行いを正し、心を清めて生きることこそが、その顕れを得る道なのでございます。
四霊(しれい) 太一大神の御徳を象る四つの霊獣
「 四霊(しれい) 」とは、太一大神の霊妙なる御徳を象徴する、四種の神聖なる霊獣のことを申します。 それぞれは天地の調和と瑞祥(ずいしょう)をもたらす存在として、古来より尊ばれてまいりました。
鳳凰(ほうおう)
鳳凰は「鳳」が雄、「凰」が雌を意味し、雌雄陰陽を合わせて「鳳凰」と呼びます。 すなわち、天地の調和・夫婦の和合を象徴する瑞鳥でございます。中国最古の類語辞典『爾雅』第十七章によれば、その姿は──頭は鶏、喉は燕、頸は蛇、背は亀、尾は魚、そして体の色は黒・白・赤・青・黄の五色に輝くと記されております。鳳凰は高潔と徳の象徴であり、徳のある者に舞い降りると伝えられます。
麒麟(きりん)
麒麟は「麒」が雄、「麟」が雌を表します。その体は黄金の毛に覆われ、背には五色の模様をまとい、身体には鱗がございます。古くは一本角、あるいは無角の姿でしたが、後世では二本角、三本角で描かれることがございます。麒麟は仁徳と調和の象徴であり、人々の徳が満ち、争いが鎮まる時にのみ、その姿を現すといわれます。
応竜(おうりゅう)
応竜(黄竜)は四竜の長でございます。 四竜とは、青竜・赤竜・白竜・黒竜のこと。 応竜はこれらを統べる竜王にして、天に昇り雲を起こし、雨を降らす天の使い・生命の循環の主でございます。その姿は、太一大神の陽の御気(みけ)を宿し、動きては雷を発し、静まれば大地を鎮めると伝えられます。
霊亀(れいき)
霊亀は、背に四季五色の光を帯びた「 蓬萊山(ほうらいざん) 」を負うと伝えられる、神霊の亀にございます。 その口には牙があり、耳をもち、甲羅の上にそびえる蓬萊山には、予知の力を持つ不老不死の神仙が棲むと伝えられております。 霊亀は、永遠・安泰・生命の基盤を象徴し、その静かにして動かぬ御姿は、地の理(ことわり)を体現しているのでございます。四霊と四神
これらの四霊は、太一大神の御働きを地上に分かち顕された御姿であり、 のちに天上においては、太一大神が産み出した星々に宿る御神格として「 四神(しじん) 」と化しました。青龍・朱雀・白虎・玄武――
これらは四方を護る天の守護神として、古典には「 天之四霊(あめのしれい) 」とも記されております。
すなわち、地の四霊は天の四神に通じ、その根源はすべて太一陰陽五行の霊気(れいけ)に発する。
天と地と人が響き合うとき、そこに霊獣は顕れ、その姿は、太一大神の御徳を映す鏡となるのでございます。